痔闘病記 神戸・大阪編

1-16: あんなこといいな、できたらいいな

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◎前回までのあらすじ
レッドオーシャンの荒波も乗り越え、五日間の入院が終わり、俺はいよいよオフィスに復帰する。
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痔が発覚する6月上旬まで、俺は天満(大阪)から神戸のオフィスまで車で通勤していた。
外国人が多い会社の文化の影響だろうか、それとも神戸というセンスある街の影響だろうか、会社近くの駐車場にはBMW、アウディ、アルファロメオなどがずらりと並んでいた。
そんな駐車場に颯爽と乗り込む俺の愛車は、デミオ。 俺の体躯を悠々と抱え込むその車体は、ポルシェ カイエンと並んで停めるとまるで、曙と貴闘力を髣髴させるようなサイズ感であった。

しかし、退院後の初日、俺は六甲ライナーに揺られていた。
「なんて、モノレールは痔に優しいんだ。」
アイオープニングな発見。 俺は六甲ライナーのその流れるような発停車に、そして痔患者を思いやってであろう、モノレールで通勤できる場所にオフィスを構えた会社の決断に、感嘆の声を漏らさざるを得なかった。
手術直後の痛みと比べると、我慢できる程度にはなっていたが、やはり椅子に座ると激痛が走るため、俺は電車通勤に切り替えたのだ。
ちなみに、自宅のある天満からモノレールにたどり着くまで、JRを乗り継がないとならない。
梅田発の新快速(特に梅田―西宮間)のその横揺れの激しさは、ロデオの如し、要注意だ。
痔の皆さん、新快速に乗るときは、ぜひ金属の手すりをしっかりと握り締めて欲しい。

モノレールの駅から、オフィスまでの500メートルほどを一歩一歩踏みしめて歩く。
足を交差させる度に、双臀が揺れ動く度に、切り裂くような痛みが走る。
俺が痔になったことは、上司のマネージャーと、ディレクターと、ごく限られたチームメンバーにしか知らせていない。メンバーには「内密に頼む」と緘口令をしいていた。(第9話: 「結果こそがすべて」参照)
外資系マーケッターとして、自分のパーソナルエクイティーに万全の配慮は当然だ。

俺は普段となんら変わらない様子でオフィスに向かっていく。
ガラス張りのエントランスに足を踏み入れる。
レセプションのお姉さんに笑顔を送る。
警備員の方に会釈をする。
22階のボタンを押す。

ここまでは完璧だ。

当時俺が勤務していたビューティーケアがあった22階に降り立った。
いつもよりもみんなの視線を感じる。気のせいだろうか。
軽く疑問に思いつつ、自分の机にたどり着いた俺。次の瞬間、椅子に視線を落とした俺は、声にもならない鋭い悲鳴をあげた。

dora_chair

「ド、ドラちゃん!」

いつも我々に夢を与え続けてくれていた、ネコ型ロボットの、こんなスットコドッコイな表情、誰が見たことあっただろうか。
その見事に円を描いたドラえもんの口は、俺の肛門を今か今かと待ちわびているようだった。
「ドラちゃんが、その口ぃ、空けて待ってんぜ!」
俺は遠慮することなく、痛みの走るお尻を下ろしてみた。

「あぁ、楽だわぁ
安堵の声が漏れる。
未だかつてない、お尻に優しい座り心地だ。
お尻に痛みを軽減したい、という俺の夢を叶えてくれる不思議なポッケに喝采だ。

俺はふと我に返る。
このドーナッツ状のクッションは、痔のアイコニックな存在。「ドーナッツクッション=痔の患者」は明快すぎる方程式だ。このままでは「俺が痔」とばれてしまう。
「俺が痔」という印象を拡散させないのは喫緊の課題。というか、そもそも誰が置いたんだ?

そのとき、俺は当時入社二年目の大田さん(仮名)の名前が頭を真っ先によぎった。日本最高学府出身の彼女はその肩書きに恥じない明晰な頭脳を誇っていたが、国語がちょっと苦手という噂があった。俺は確かに「内密に頼む」と言ったのだが、、、
彼女のデスクに俺はにじりよった。

俺「大田さん、ちょっと聞きたいんだけど、ドラえもんクッション置いた?」
大田さん「はい!かわいいでしょ!早く治るといいですね。」
やはり、彼女だったか。俺は引き続き問いただす。
俺「てか、俺、内密って言ったよね。痔だってことは内緒って言ったよね!」
大田さん「誰にも先輩が、痔とは言葉では言ってないですよ。言葉では。内密にしてますよね。」
俺は言葉を失った。
見事なカウンターロジックだ。俺はうなずくしかなかった。

でもね、大田さん、ドラちゃんは俺が痔であることをすでに雄弁に語っているよ。。。君が言葉で伝えていなくても。
俺が危惧したとおり、すでにオフィスでは、俺が痔であるという噂が、枯れ野に火を放つように急速に広まっていっていた。。。

・・・・・・・・・

しかし、苦悩はまだ序の口だった。オフィスがいかに痔に対してつらい場所であることを知ることとなる。そして俗に言う痔世代 三種の神器(ウィスパー夜用スーパー、コーラック、休足時間)がいかに効果的かを実感するのも、そう遠くなかった。
(来週に続く)
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◎今週のQ&A
今週もブログ訪問ありがとうございます。
この週末、Twitterを中心に紹介いただき、訪問者20万人、ユニークユーザー4万人を超えました。ありがとうございます。

今週はドーナッツ状クッションの功罪についてです。
ドーナッツ型のクッション、皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか?「父が使っていました!」というメッセージもよく頂きます。
真ん中に穴が開いたクッションは、 患部が直接触れなくなるために、痔の患者には広く使われています。今週のブログでも書きましたが、実際に手術後に座ってみると、痛みは大きく軽減され、その快適さには舌を巻きます。
しかし、私が訪れた肛門科にはよく注意書きされていたのですが、このドーナッツ状クッションには二つのリスクがあります。
●その真ん中がくり抜かれたデザインのため、患部が放射状に広がってしまう。
●肛門に通常の椅子よりも、圧力が集中するために、中期的には痔のリスクを更に高めている。
わかりやすく図解してみましょう。左が通常クッション、右がドーナッツ状クッションです。
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このように、ドーナッツ状クッションは、一時的には症状を緩和させるものの、中期的には痔を悪化させるリスクがあり、その痛みのために更に手放せなくことから、我々の間では「クッション界のモルヒネ」と呼ばれています。
ちなみに、科学的に一番よいのは、テンピュールのような低反発クッション(正方形)のようです。
私のドラえもんクッションは、依存することなく無事にその役割を終え、私がシンガポールに異動になる際に神戸オフィスの倉庫にそっと寄贈しておきました。神戸オフィスの皆さん、どうしてもお尻が痛いときお使いください。
そして、ちゃんとドラえもんクッションの写真を保存していた大田さんに敬意を表します。

では、今週もよい一週間を。

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