痔闘病記 神戸・大阪編

1-20:痔が教えてくれたこと(第一部最終話)

Pocket

◎前回までのあらすじ
ピンクの小悪魔 コーラックの使い方もマスターしシートン法が軌道にのってきた俺は、痔ろう完治に確実に近づいていた。
——————————
6月に手術を受け、7月からゴム管を締めることで、肛門をゆっくり切除する生活が始まってから、俺の朝のリズムは一変した。
①起床→②朝食→③歯磨き→④着替えて出発、というリズムの③と④の間に、おしりをシャワーで洗浄→脱脂綿で優しく拭く→パンティーライナーを三枚重ね→パンツを穿く、というステップが追加される。もちろん帰宅したら、そっとパンティーライナーははずし、夜に備えきちんと吸収のウィスパーに切り替えることは欠かせない。 これで朝への不安もなくなって、熟睡だ。

時は、ゆっくりと、しかし確実に流れる。
9月はプロジェクトの激務に悲鳴をあげ、俺の肛門も未だゴム締め上げに悲鳴をあげていた。
10月はプロジェクトのレビューに追われ、俺も時間を縫うように大阪北逓信病院を訪れては治療を続けていた。
11月はIntervention Planを歯を食いしばってデリバーし、俺も肛門括約筋を食いしばってシートン法をデリバーし続けた。

気がつけば、手術から半年経とうとしていた。

11月を過ぎると大阪の朝はぐっと冷え込む。
俺は6時ごろに起床すると、アナル最優先の献立、ヨーグルト&バナナを胃に流し込む。
歯を磨いた後に、俺は浴室に入ると、寝ぼけ眼のままシャワーのノズルを肛門に向ける。

お湯を掛け始めて数秒、不意に「プツンッ」という小さな反応を臀部に感じた。
寝ぼけたままだった俺だが、瞬時に悟った。 これが肛門が切除完了のしるしだったということを。
検証するためにシャワーのノズルを回し止め、浴槽に這いつくばる俺。
その俺の視界には、排水溝へと流れ込んでいく、ゴム管が目に入る。
俺は頭から猛然と飛び込み、すんでのところでキャッチに成功した。尻ゴム 危機一髪だった。

今まで俺の肛門に埋まっていたため、正対したところ見たことがないゴム管。
俺は浴室の寒さに震えながら、水蒸気にかすむライトにかざして見た。
gomukan

市井の人々には、ただの円形ヒジキに見えるかもしれない。
だが、俺には、この半年の苦闘を共に乗り越えたかけがえのないバディーだ。
「やっと会えたね」
俺はそっと話しかけた。
——————————–
俺は片時も離れたくなかった。
ゴム管を手に取ると、コートのポケットに入れて俺は出勤する。

天満から環状線に乗り込む。
「今までも、これからも一緒だからね」
俺はゴム管を取り出し、指の上で撫でたり擦ったりして、感動の対面を味わう。
ゴム管はループ状の形を保っていた。しかし、長い日々をかけ少しずつ締め上げていたので、その直径はだいぶ小さくなっており、薬指の第二関節くらいになっていた。
オフィスが近づくにつれ、俺はそっとティッシュに包み込むと、しばしの別れを告げカバンの定期入れの中に差し入れた。
———————————
だが、数日が過ぎ、俺は気づき始めていた。
お別れのタイミングだと。
所詮、俺はこっち側の人間、ゴム管はアナル側の存在だ。交わることはない。
毎日洗浄していたとは言え、衛生的に、生理的に嫌悪感を示す人もいるだろう。
そして、なにより、保管しておくことに、あんまり価値がなかった。ときどき薬指にはめて悦に入るくらいだ。

俺は心を鬼にしてトイレの前に立つ。
ゴム管をTOTOのトイレに投げ入れる。
「もう二度と、俺の前に現れるなよ」
俺は零れ落ちそうになる涙をこらえ、金属のレバーをぐいっと押し込む。
ゴム管は勢いよく、水流に飲み込まれていった。

流れたゴム管は振り返らない。
俺は完全につながった肛門と共に、新しい一歩を歩みだした。
見慣れた梅田の風景が、こころなしかいつもより澄んでいるように見えた。
———————————-
これが外資系ブランドマネージャーの俺が体験した、痔ろう闘病体験 in 2008のすべてだ。
痔ろうになんて、ならないほうがいいに決まっている。
痔ろうになって、俺が手に入れたものは、肛門の知識と、キングとしての誇りくらいだ。
だが、俺の愛読書『ブッダ』にあるように、人間の悩みの多くは物事の捉え方から来ているのであって、「物事を正しく見、正しく思い、正しく話し、正しく仕事をし、正しくくらし、正しくつとめ、正しく祈り、正しく生涯をおくる」ことが肝要であるということに気づいた。
痔だから恥ずかしいのではない。それをゆがんだ目でみる自分の心が恥ずかしいのだ。
痔である自分をどう正しく捉え、痔に対する自分の行動に自覚的であることが試される。
風邪や、花粉症のように、痔のことが普通に話せる社会が訪れることを、俺は切に祈る。

(そんな俺の悩みは、i) 最近ブログが知れるに比例してもっと結婚できなくなってきている気がすることと、ii)親バレだ。 上記で言っていることと逆であることには自覚的だ。つまり、俺もまだまだだ。)

———————————–
今週のQ&A
皆さん、ご愛読ありがとうございました。
全20話の「この俺が、痔…!?: 外資系ブランドマネージャーが語る 痔闘病記: 神戸・大阪 激闘編」はこれで完結となります。12月31日ムンバイの旅行中に書き始めてから五ヶ月弱、30万近いアクセスをいただき心から感謝しています。

最後も恒例の、今週の質問です。今週はメールでいただきました。
「痔ろうは下痢が原因とのことでしたが、発症当時は下痢が頻発していたんですか?」
結論から言うと、NOです。下痢が頻発していませんでした。 私はもともと胃腸は強いのであまり下さないのです。
痔ろうは、その直腸と肛門の間の歯状線に細菌が入ることで発生するのですが、要は確率の問題なのです。一回で細菌が入ることもあれば、何回下しても大丈夫な人もいます。もちろん下痢が頻発する人のほうがリスクは高いのですが、普段は胃腸が強い方が痔ろうになる可能性も十分あります。

今から振り返ると、関西に住んでいるときに、私は胃腸に負担のかかる生活をしていました。
●大阪は万両、神戸は満月というような焼肉の名店が多いので、月に焼肉(消化にはあまりよくない)数回食べていた。
●長時間椅子に座ったままで、オフィスで過ごすことが多かった。
●トイレで携帯をいじったりして、ついつい5-10分くらい座っていることがあった。
なので、下痢の頻度は大きくなかったものの、胃腸・肛門へのプレッシャーは高かったと思います。
(腸の蠕動運動が非正常化すると、下痢をしやすくなるので、私自身はあまり関係ないですが、タバコの吸いすぎ、お酒のとりすぎや、ストレスのたまりすぎ、冷え性なども要注意です)

つまり、どのような人も痔になる可能性があります。痔ろうに限らず、痔に苦しまないためには以下に気をつけてください。
A (Analytic): 分析を常にしましょう。痛みがあるかないか、出血があるかないか、マスカット大の腫瘍はないか。毎日の観察が欠かせません。
N(Nutrition):栄養に気を配りましょう。適度な食物繊維、体をあっためることが大切です。寝る前はヤクルトです。
A(Action):アクションをとることを躊躇しない。 もしもおかしい、と思ったらすぐに専門の医者に相談しましょう。
L (Long-term):長期的な視点を。10年後、20年後を考えたプランを。自分で判断して無視すると、とりかえしがつかなくなることがあります。
G (Goal) :明確なゴール設定を。完治させるのか、それとも症状と付き合っていくのか(切れ痔などは手術しない場合もあります)。タイミングはいつするのか。ゴールがはっきりすると、金銭面を含めて明確なアクションがとりやすくります。
みなさんにも、このANALG(アナルジーと読みます)を覚えて、健康なライフを送っていただきたいと思います。

最後に三点報告です。
●わたくしごとですが、7月よりシンガポールから日本に場所を移し、新しいキャリアの道に進むことにしました。日本の会社に行くので、ブログのタイトルをどうするかが一大事です。
●このブログの出版化の話が動き始めました。また状況追って報告いたします。みなさんのアクセスのおかげです。ありがとうございます。
●シンガポールへの感謝の気持ちも含め、来週から「第二部: 痛恨のシンガポール再発編(全五話予定」が始まります。シンガポールの皆さん、City周辺で肛門科を狙って写真をとっている人がいたら私です。

では、まずは第一部、ありがとうございました。来週から第二部よろしくお願いします。

☆もしもこの痔ブログがためになったと思われたら、↓のバナーもしくはリンクをクリックお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ シンガポール情報へ

シンガポールブログランキング!:
クリックすると、シンガポール情報満載のブログリンク集につながります。

9 Comments

  1. お疲れ様でした!!本が売れたら、第2弾でぜひ「留学編・バイト編・婚活編」を読みたいです!

  2. 完結おめでとうございます!本のタイトルはマスターシートンで!表紙、イラストを浦沢先生に頼めるとベストですね。

  3. 面白く、ためになる話をありがとうございました。
    便通に常に問題を抱え、両親共に痔サバイバーのこの私、バカ笑いの後は必ず「いやいや他人事じゃないから」と、己を戒めてました。
    さて、生粋の日本人の私ですが、シートン法の仕組みが最終会の記述をもってしても理解出来ませんでした。便通だけでなく日本語能力にも問題ありですね。
    出版記念として、いつの機会にか更なる詳細を教えていただければ幸甚です。

  4. 先日はメールありがとうございました!
    乙女の痔間管理人ユミです。
    お返事が遅れて申し訳ございません
    ANALG!!
    すばらしい!!!
    とても内容が読みやすく、面白くて私も勉強になります!
    ぜひ相互リンクおねがいします!

  5. 第1部完結おめでとうございます!さん
    メッセージ、ありがとうございます。
    > お疲れ様でした!!本が売れたら、第2弾でぜひ「留学編・バイト編・婚活編」を読みたいです!
    留学、バイト、婚活の話をされるあたり、かなり私に近い人だと察するのですが。もう隠すことなど何も無くなってきたような様相を呈してきたので、基本やりましょう。

  6. ユーきさん、
    メッセージありがとうございます。
    > 完結おめでとうございます!本のタイトルはマスターシートンで!表紙、イラストを浦沢先生に頼めるとベストですね。
    巨匠 浦沢先生ですか。思いつきませんでした!
    私にとっては、痔ろうは、なまえのないかいぶつ、でした。
    間違いなくアウトですね 笑 許してもらえないと思います。 
    あと、痔ブリはどう?って言われたんですが、これもアウトですね。 慙愧の念に堪えません!

  7. yumiさん、
    メッセージありがとうございます。お返事送れました。
    > 乙女の痔間管理人ユミです。
    > とても内容が読みやすく、面白くて私も勉強になります!
    相互リンク、ありがとうございます。
    詳細はメールで送らせていただきましたが、お互い大阪駅前ビルをホームとするブログ、次世代への遺産としていろんな方に読んでいただけるといいですね!

  8. Mihoさん、
    メッセージありがとうございます。
    > 質問なのですが常に血が出ている状態で貧血とかにならないのでしょうか?
    出血は体内を流れる血液の総量からすると、微々たるものなんだと思います。赤血球の不足には陥りませんでした。
    ただ、断続的に流れるためにパンティーライナーを毎日持ち歩いていました。
    電車にバッグを忘れたら、中身あけられる→自分のものと証明するために「パンティーライナー入ってます」って申告する→駅員赤面→私も赤面、というシチュエーションが一番怖かったです。

Miho にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です