痔闘病記 神戸・大阪編

1-12:尻にピアス

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●前回までのあらすじ
いよいよ手術当日。肛門科で再度診療を受け、俺は痔ろうをそのままくり抜く術法と、そのリスクに耳を傾けていた。

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今回はまじめな話からスタートさせてもらおう。
通常の自社・自ブランドで管理するウェブサイトと同様に、ブログの管理者はその訪問者について、ある程度の情報を知ることができる。個人情報はもちろん手に入らないが、訪問者数、時間帯における推移、どのリンクを辿ってきたか、などの基本的なデータだ。 その中に「検索ワード」という、訪問者がどのような検索ワードを調べ俺のサイトに来たのかを見る機能がある。
3月の検索ワードはなかなか、興味深い。

●上位には、「外資系 痔」「この俺が痔」が並ぶ。
top3
 予想したとおりだ。

●もう少し下に目を下ろすと、「痔の闘病記」などと並んで「ふんどしとおれ」などのコアなフレーズが現れる。
fundoshi to ore
 俺のブログの細部にまで目を通していることが窺え、まさに読者の鑑だ。

●さらに時々、何を血迷ったか「外資系 ブランドマネージャー」と検索してたどり着いたマニアックな者も現れる。
gaishi_brand_manager
 一言、言いたい。
こんなブログで、正直、すまんかった。

しかし、外資系のブランドマネージャーになりたくて就活をしている人が真面目に調べてたら、どうするのだ。
良心の呵責に1秒ほど悩んだ俺は、今回は少し真面目なトーンで入ろうと思う。就職活動中の君、もう少し読み進めてほしい。

もう昔話になるが、俺が外資系ブランドマネージャーへの一歩を刻み始めたのは、2004年の春だった。俺が受けていた外資系企業の採用活動は最終段階を迎え、俺はスペイン人ディレクター(仮名:マリオ)へのプレゼンを終え、引き続きインタビューが行われていた。マリオは俺の履歴書を見ながら手短に、次々と質問を飛ばす。「大学では何をしたのか?」「法律の勉強とは具体的に何をしたのか?」「リーダーシップを取った経験をもう少し詳しく教えてくれ」。
受けた質問に対して、英語で淀みなく答える俺。しかし、マリオは若干の語気を強めて言った。
「違うんだ。俺が聞きたいのはCARなんだ。事実の列挙じゃない。Context – Action – Resultなんだ! それぞれのCARを教えてくれ!君がどう価値を出したのかを教えてくれ!」
フレームワークの名前こそ異なっても、このContext – Action – Resultは、アクションに対する評価の考え方の基本である。就職活動中の学生のみんな、忘れないで欲しい。

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さて、大阪北逓信病院に舞台を戻そう。
先生に痔の手術方法の一つ、開放手術についてのリスクの説明をうけていたとき、まさに俺の頭にはマリオの言葉、「事実の列挙じゃない。アクションの評価はCARの視点から考えるんだ!」が駆け巡っていた。
慌てるな、俺。
さぁ、今こそ、CARを使うんだ!

C(Context) 痔になった。
A  (Action)  手術をする。
R  (Result)  お尻がしまらなくなる。(かもしれない)

あぶない!!!
むしろ逆効果、な気がする。
先生「もちろん成功する可能性が高いが、肛門機能が低下すると、寝ている間に便が漏れることがあります」
恐るべし肛門括約筋。
就職活動中のみんな、肛門括約筋の大切さも忘れないでほしい。

そんな説明を受ける俺は、まだ27歳の外資系マーケター。
リスクと、俺の人生に与える影響を考える。
そうだ、俺には、まだやり残したことがある。
俺には夢がある。いつか世界で活躍するプロフェッショナルになるという夢が。
俺には夢がある。いつか痔ろう有りでも、人生の伴侶を見つけるという夢が。
俺には夢がある。いつか、二つになってしまった肛門も、手を取り合ってまた一つに戻るという夢が。(そして、肛門機能はそのままでお願いしたい)

俺はかぶりを振りながら、先生に尋ねた。
「やはり、まだ肛門機能にはこだわりたいんです。他に方法はありませんか?」

先生は穏やかな表情を崩さず、二つの方法を提示した。
「はい、他には、肛門温存手術と、シートン法があります。あなたは幸い、原発巣、痔管、二次口の位置が肛門からそれほど遠くないので、シートン法でいけると思います。」

オンゾン?ゲンパツソー?ジカン?
ま、全く聞き取れねぇ。
多様な人種の英語が飛び交う職場でも、ここまで聞き取れないことは経験したことがない。

しかし、俺には「シートン」という言葉だけは聞き取れていた。
シートンっていったら、あの名作「シートン動物記」のシートンか?
このセンテンスの中で、唯一なじみのある言葉だ。
しかも、よくわからないが、お勧めらしい。

全く聞き取れなかった動揺は隠しつつ、聞き覚えのある言葉があることに安堵を覚え、俺は先生に返答する。
「では、私の理解のために、そのシートン法を詳しく教えてもらえますか?」
俺の頭の中に、子供のときに見た、かわいいクマさんとか、オオカミさんとか、ウサギさんの絵がよみがえる。
Seton

「シートン、お前も手広くやっているな」
心の中で、俺はシートンに喝采を送っていた。

そんな俺を横にし、先生の解説は続く。
「シートン法は、痔ろうの一次口と、二次口の間にゴムをかけて、数ヶ月かげて徐々に切っていくんです。徐々に切除するので肛門括約筋へのダメージは少ないです。」
そして、ホワイトボードに図解する。その時の絵はこんな感じだった。
seton_jpg

「ちょ、ちょっと、全然シートンっぽくない!かわいくないじゃねぇか!」
動物記の流れを汲み、牧歌的な雰囲気の術法を予想していた俺は、その医学的な図解を目の前に鼓動が早まる。
「こ、これじゃ、ま、まるで、尻にピアスじゃねぇか!」

尻にピアスの衝撃をうけながら、俺は意思決定をしなければならなかった。
沈黙が走る。
何度もリスクを考える。
口の粘膜が乾いてカラカラだ。
いよいよ決断のときだ。
俺は、ついにその口をあけて、先生に告げた。

「シートンでお願いします」
賽は投げられた。

<午後>
手術法も決まり、俺は慌しく病室へと向かう。
成人が4人入る共同病室。
日々の喧騒を離れ、たまにはこんな生活も悪くない。
俺にはゆとりが戻ってきていた。

おっと、いけない。大切なことを忘れていた。
俺は、天満ダイコクでの一件を思い出していた。

「ふんどし、見つからなかったことを謝らなくては」

悪い報告こそ速やかに行う、に限る。俺はナースセンターに足を運ぶ。
婦長を目にすると、軽く会釈をする。

婦長「どうしましたか?」
俺「え、えぇっと、、、」

がんばれ、俺。
たしかにふんどしを持参するように指示には応えられていないが、お前は精一杯やったじゃないか。天満ダイコクで恥辱をうけただけではない。お前は次の日、梅田堂山町交差点のダイコクのほうが店は大きいのに人は少ないことに気づき、再度ふんどしを求めて店をくまなく探したではないか。
お前はもう十分がんばった。
許されていいころだ。

心の中の葛藤を乗り越えて、俺は婦長に頭を下げた。
俺「すいません! 私、ふんどし、見つけられませんでした! すいません!」
婦長「あ、大丈夫ですよ。二階の売店で売ってますよ。T字帯(ガーゼでできたふんどしみたいなもの)っていうんですけどね

・・・・・・・・・・・

6月16日、おそらく梅田で一番ふんどしを探していた人であろう俺は、コンクルージョンファーストが日本でも一般的になることを、切に祈る。

・・・・・・・・・・・・

午後はいよいよ手術だ。ついにシートン。iPodを握り締めながら心を落ち着かせる。そろそろナースが来るはずだ。

(次週に続く)
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今週も訪問ありがとうございます。
週末はダイビングに出かけており、一週休むことを考えたのですが、思ったよりも早く帰ることができたので執筆できました。Twitterでメッセージいただいた皆さん、ありがとうございます。大海原に身を任せながらも痔ブログに構成に思いを馳せていました。私の中で使命感が芽生えてきたようです。

では、今週のQ&Aにいきます。
今週は二つです。

#1: 「これって本当にあった話ですか?」
起きたことは全部実話です。 仮名ではありますが、登場人物や、日付、病院での出来事などすべて実話です。会話に関してはすべて覚えていないので記憶を頼り書きながら、若干のデフォルメを加えています。
ちなみに、以前に出てきたドアラですが、実はドアラは痔です。これは痔ワールドでは有名で、ドアラを応援するスレッドが2ちゃんねるにあるくらいです。

#2: 「痔でダイビングするとどうなるんですか?」
グッドクエスチョンですね。
結果からいうと、全然ダイビングいけます。(現在の私、おそらく再発している可能性大です)
二泊三日でダイビングしていましたが、全く問題ありません。おそらく体内の空気の圧力と水圧が常に均衡状態を保っているのではないでしょうか。
これと似た内容で「痔で飛行機乗ると、気圧で痔が爆発って本当ですか?」という質問もありました。
結論からいうと、爆発しません(笑) そもそも、飛行機は与圧によって地上と同等の気圧なはずなので、問題ありません。
と自信満々に答える私ですが、実際、飛行機に乗る前に「痔 飛行機 気圧 爆発」でGoogle検索したことは秘密です。

来週はいよいよ手術に入ります。
今週もよい一週間を!

6 Comments

  1. 度々お邪魔してすみません。
    今度は I HAVE A DREAM! ですか。
    元ネタはマーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師ですね。
    もしかしてマへリア・ジャクソンもお好きですか?
    なお、推敲中の校閲もれと思われる部分が
    ありましたので、指摘させていただきます。
    >俺には夢がある。いつか痔ろう有りでも、
    >人生の伴侶が見つけるという夢が。
    「人生の伴侶が見つける」は、
    「人生の伴侶が見つ< か>る」、
    もしくは「人生の伴侶< を>見つける」ですね。
    「< を>見つける」の方が、筆者の意志を強く感じさせ、
    文脈に合うような気がいたします。

  2. 妻から紹介されて一気にブログ読ませて頂きました。
    本当に面白かったです。
    僕も1981年生まれで大阪在住です。
    今までに3度の肛門周囲膿瘍切除術、3度のシートン法を受けて現在経過観察中です。
    お互い頑張って治して行きましょう!
    一通り僕も経験しましたので、状況が手に取るように分かります。
    海外に行ったときには、飛行機の手荷物の中に、うっかり消毒液入りの携帯ウオッシュレットを入れてしまって外人に取り上げられた経験もあります。無念でした。携帯ウオッシュレットの中身は空にして機内で消毒液を入れるに限ります。
    海外出張が多くて大変だとは思いますが、お体ご痔愛くださいね。

  3. >私はぢぬしではありませんがさん
    度々お邪魔してすみません。
    >
    > 「人生の伴侶が見つける」は、
    > 「人生の伴侶が見つ< か>る」、
    > もしくは「人生の伴侶< を>見つける」ですね。
    > 「< を>見つける」の方が、筆者の意志を強く感じさせ、
    > 文脈に合うような気がいたします。
    おっしゃる通りですね!ありがとうございます。
    30を迎えた私ですが、伴侶を見つけようとする意志の強さを感じとって頂いたようでなりよりです。来週も楽しみにしてくださいね!

  4. >オイル君さん
    メッセージありがとうございます。
    > 妻から紹介されて一気にブログ読ませて頂きました。
    まずは、立派な奥様をお持ちですね!
    > 僕も1981年生まれで大阪在住です。
    > 今までに3度の肛門周囲膿瘍切除術、3度のシートン法を受けて現在経過観察中です。
    なんと!三回もシートン法! 何度も痔瘻に立ち向かうすがた、不屈の闘志を持つ広島前田だ選手のようですね。
    > 海外に行ったときには、飛行機の手荷物の中に、うっかり消毒液入りの携帯ウオッシュレットを入れてしまって外人に取り上げられた経験もあります。無念でした。携帯ウオッシュレットの中身は空にして機内で消毒液を入れるに限ります。
    無念すぎます!切り捨て御免です!あなたの胸中を察すると、肛門から嗚咽が聞こえるようです。機内で消毒液は、まさにExclusiveな情報ですね。
    > 海外出張が多くて大変だとは思いますが、お体ご痔愛くださいね。
    強調しすぎず、でも存在感のある締め方、さすがです!

  5. 私も痔ろうで手術の経験があります。ですので、作者さんの情景含めて全てありありとイメージできます。ですが、1点誤解を与えかねないので訂正をお願い致したく、今回書込みをさせて頂きます。
    手術の方法についてですが切開開放術の効用について、きちんとご説明をされるべきだと思います。(特にこの術式で笑いを取りに行っている以上は、責任を持たれるべきと思料します)
    痔ろうの程度や位置によっては非常に簡便かつ、効果的な場合があるのが切開開放術です。確かに肛門括約筋の一部を切除する為、肛門機能の低下が発生する事は否めませんが、各人の症状によっては最適な手術法だと言えると考えています。かくいう私も切開開放術で手術を行い、術後1カ月後にはほぼ完治、その後の再発も現在までありません。
    ちなみに、私の痔ろうの手術では切開開放術を選択できたという幸運もあったかもしれません。
    尚、私の症状は痔ろうⅡLcの7時方向(進行状況がⅡ段階、原発巣は低位(Low)、複雑(曲がっている、complicated)、肛門に対して7時方向(後ろ側、右寄り)でした。
    作者さんの痔ろうの症状が分からないまま、シートン法が最善とするのは少し抵抗があるので、コメントさせて頂きました。今後の執筆も頑張って下さい!

  6. アナゴさん、
    メッセージありがとうございます。
    >1点誤解を与えかねないので訂正をお願い致したく、今回書込みをさせて頂きます。
    > 手術の方法についてですが切開開放術の効用について、きちんとご説明をされるべきだと思います。(特にこの術式で笑いを取りに行っている以上は、責任を持たれるべきと思料します)
    アドバイス、ご意見ありがとうございます。
    ●切開開放術が有効な術法であることが多いことは間違いないと思っています。
    ●そして、笑いをとりにいっている、同時にその術法の説明をうけたときのインパクトが大きかった、ことからこういう書き方にしました。
    ●第二部 第二話で詳しく書きましたが、いずれ医学的な見地からサポートをもらうこと、さらにみんなが恥ずかしがらず異なる意見を交わす世の中にすることが私のビジョンです。それに近づくために、まずは出版などから実行していきますね。
    Twitter、アドレスなども公開しているので、そちらにご意見いただいても大丈夫です。
    ご意見、ご訪問、ありがとうございます。

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