痔闘病記 神戸・大阪編

1-10: 聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥

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◎前回までのあらすじ
入院のための休暇について、鮮やかに社内ステークホルダーの許可をとった月曜日。オフィスを少し早めに出た俺は一人、大阪天満の夕暮れに溶け込んでいく。
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6月18日(木曜日)からの入院に向けて、もう三日を切っていた。
俺の臀部は、歩くたびにいまだ痛みが走る。無理もない。俺は二つの肛門を持ってしまったのだから。
メスで切り開いたトンネル出口をガーゼでふさいでいるのだが、軽い出血は続いていた。
ガーゼの吸収力に心許なさを憶える俺は、生理用品を買うべく、大阪天満駅前にそびえたつ「元気!激安!ドラッグストア ダイコク」に吸い込まれていく。ダイコクとは、「元気!激安!」のモットーに忠実に、若い店員さん(かわいい傾向高い)が黄色い声を張り上げ、「いらっしゃいませ!大特価です!」とBGMが鳴り響く、近畿方面に住んだ人なら誰でも知っているドラッグチェーンだ。
「入院生活に備え、準備もすべて終わらせよう。」
俺の右手には、大阪逓信病院から渡された「入院のてびき」がにぎりしめられていた。

生理用品といったらウィスパーだ。
whisper

俺の中で買うブランドは決まっていた。
購買意思決定の際、カテゴリーへの関与度が低い場合は、トップブランドを選択する可能性が高いというがまさにその通りだと実感する。
男性の俺でさえ耳に残っている、「安心 さらふら、立体サイドギャザー」のウィスパー。
「ウィスパー、さすがだ。お前は横綱だな」。
そんな軽口を叩きながら生理用品が並ぶ棚にたどり着いた俺は目を丸くした。

「な、なんと、すさまじい商品数なんだ!」

夜用・軽い日用、スリム・超吸収、さらふわ・ふっくら。
ウィスパーだけではない。全ブランドが、細分化されたニーズに応えるべくラインナップを拡充している。
極めつけは、21cm、22.5cm, 26cm, 30cm, 36cm,40cm,と細かく刻まれた数字だ。
世の女性は、どのタイミングでどの長さを使うべきか、知っているらしい。
男性諸君、君は自分の臀部の大きさを意識したことがあるか!なんというスキルだ!
驚愕しながら、俺は世の中の女性に最敬礼をし、ウィスパーさわふわスリムを買い物カゴに放り込む。

その時、俺の視線に何かが止まった。
パステルカラーで占められた生理用品棚に、金色と銀色の神々しいパッケージが並んでいる。
その名も「Megami」(女神)。
megami

俺はおそるおそる手にとると、背面を読み込んでいく。読み終わったときには、俺はMegamiもカゴに放り込でいた。
Megumiのセールスポイントは下記の三つだ。
●男性の俺でも手に取りやすい、パステルカラーの海の中に光る、金と銀のパッケージ
●「やわらか」と、「ウルトラ」という、シンプルで美しいバージョン構成
●そして、俺の中の乙女心をくすぐる、ナプキンの周りを縁取る「フリルカット

俺の目は節穴じゃねぇ。
マーケターの目を誤魔化せると思うなよ。俺には見える、女性の生理用品マーケットで一定のシェアを抑えつつ、ど真ん中な生理用品に二の足を踏む、俺のような男性痔患者にペネトレートしようとする魂胆が。
大王製紙の、生理用品市場を再定義する大胆な戦略を見抜いた俺だが、心の中で喝采を送っていた。

周囲の女性買い物客の不審な目を一身に集めつつ、ウィスパーとMegamiをカゴに入れた俺は、他の入院用具を手早く集める。天満のダイコクは地下一階が100円ショップになっていて入院の準備にはうってつけだった。俺は入院のてびきに書かれたアイテムを、上から順にカゴに入れていく。

歯ブラシ。
コップ。
ウェットティッシュ。
タオル。
ふんどし。
fundoshi

ん?

ふんどし!?!?
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「ガーゼを落ちないように支えつつ、脱着が容易にできるので、ふんどしをご準備ください。」
入院のてびきは、震える俺の手の中で、なぜふんどしが俺に必要なのかを伝えていた。
途方にくれる俺の鼓膜に、佐賀の祖母から何度も教えられた、メッセージがその時よみがえった。
『聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥』
「おばあちゃん、ありがとう。やっと27歳にしておばあちゃんの言っている意味がわかったよ」

俺は、ふんどし以外の必要なものを詰め込んだカゴを抱え、20歳前後の女性が担当するレジにたどり着く。
コンクリュージョン ファーストが外資の基本中の基本だ。そのスキルをここで試す機会がくるとはな。
俺は外連味なく、彼女に冷たく言い放った。

俺「あのー、すいません、こちらのお店に、ふんどし、ありますか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その場で何が起きたかは聞かないで欲しい。
俺が言えることは、二つ。
●レジの店員さんも爆笑することがあるんだ、っていうことと
●一瞬の恥が、一生のトラウマになることもあるんだ、っていうことだ。
この二点は特に重要だから、みんなも是非覚えておいて欲しい。

その日も長い一日だった。俺は、大阪随一といわれる梨花食堂のカレー(天満ダイコクの横にある)で胃袋を満たし、心の傷を癒し帰路につく。
家に着きベッドに横になる。石のように眠る。朝があけたら入院まで48時間。

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今週のQ&A
この数日は、Facebookで多くの方にシェア、いいね!をいただき、Facebook経由で多くの方に来ていただきました。ありがとうございます。だいたい一日1000人ほど、ユニークユーザーで300人前後の訪問をいただいております。
その中で最近よく「名前ばれちゃうかもしれないけど、いいの?」と質問を受けますが、「特に問題ないですよ」とお答えしています。「痔も含めての私」との結論にいきついたからです。

その結論に至ったきっかけは、「親類の方が痔だと思っていたら大腸がんだった」というエピソードを数年来の友人からいただいたこと。「恥ずかしい」という気持ちで人に言いづらい、だから治療をさける、結果としてがんの発見が遅れる、というケースがあるようです。(痔も、がんも、出血という症状は同じなので、自分で痔と判断する気持ち、わかります)
「みんなが恥ずかしがらず、痔のことを話せたらいいですよね」と言いつつ、自分の名前は頑なに隠すという姿勢はおかしいかな、と思いはじめました。
先づ隗より始めよ、ですね。

唯一のリスクは、私の私生活リスクでしょうか。最近「この人、痔なんだけど、いい人なんだよ」って初めて会う異性にも紹介されることが多く、爆笑はとれるのですが、結婚がさらに遠のいている気がします。
気のせいでしょうか。

今週は固めのQ&Aになりました。
来週は、当初の予定に戻り、手術法である、a)肛門括約筋温存手術とb) シートン法の解説に入りたいと思います。また、私のiPadがうなりをあげる予定です。

では、今週もいい一週間を!



			

9 Comments

  1. ふんどしですか(^_^)入院生活に必要で、購入に勇気がいるような場合は大学病院等の売店に行けば気軽に手に入りますよ!局部が観音開きになる男女共用の下着もあるのですよ☆

  2. 僕も5%に入る者です。いや、初診ですべてを持っていると診断されましたので5%x45%x50%=1.125%に入ります。
    海外はウォシュレットがないので旅行や出張時は携帯ウォシュレットは必携ですよね…忘れた日にはケツを拭きたくなくなる。この場合無理やりティシュを濡らして拭いてますが。

  3. 同病相哀れむじゃないけど、同じ「痔ろう」経験者
    です。手術で完治しました。軽いほうだったので
    入院なしで済みました。
    「ふんどし」は病院では「T字帯」とか言いますね。
    肛門の周りはちゃんと菌を殺すような分泌物が
    出ているので、あまりきれいに拭くのは逆に
    良くないと聞きました。濡れティッシュで拭くのは
    いいですが、あまり拭きすぎるのも良くない?

  4. 佐々木俊尚さんのtwitterから飛んできました。あまりに面白いので一気に全部読ませて頂きました。
    若い女性も痔になるとは良く聞きますが、若い男性も痔ってなるんでしょうか…?
    今21歳の僕は正直この記事で痔に対する大いなる不安を抱いてしまいました。笑
    ではこれからも面白く、為になる闘病記を期待しています!

  5. みゆさん
    メッセージありがとうございます。
    > 局部が観音開きになる男女共用の下着もあるのですよ☆
    レベル高いですね!でも局部が観音開きになると、もともと下着が持つべき機能である包むという意味がなくなる気がするのですが(笑) よく考えると下着ってなんで着けてるんでしょうね。奥が深いですね。

  6. 治五郎さん、
    コメントありがとうございます。完治おめでとうございます。
    > 肛門の周りはちゃんと菌を殺すような分泌物が
    > 出ているので、あまりきれいに拭くのは逆に
    > 良くないと聞きました。濡れティッシュで拭くのは
    > いいですが、あまり拭きすぎるのも良くない?
    おっしゃるとおりですね。もともと肛門のまわりは、雑菌が発生しづらく、傷も治りやすい場所ですからね。ボディーソープを使いたい誘惑にかられますが、実はシャワーで流すがベストバランスのはずです。ここらへん、繊細なバランス感が求められますね。

  7. 治五郎さん、
    コメントありがとうございます。完治おめでとうございます。
    > 肛門の周りはちゃんと菌を殺すような分泌物が
    > 出ているので、あまりきれいに拭くのは逆に
    > 良くないと聞きました。濡れティッシュで拭くのは
    > いいですが、あまり拭きすぎるのも良くない?
    おっしゃるとおりですね。もともと肛門のまわりは、雑菌が発生しづらく、傷も治りやすい場所ですからね。ボディーソープを使いたい誘惑にかられますが、実はシャワーで流すがベストバランスのはずです。ここらへん、繊細なバランス感が求められますね。

  8. しょうへいさん、
    メッセージありがとうございます。
    > 佐々木俊尚さんのtwitterから飛んできました。あまりに面白いので一気に全部読ませて頂きました。
    佐々木さんは、新聞とかで目にする名前でしたので、RTされていてびっくりしました。
    > 若い女性も痔になるとは良く聞きますが、若い男性も痔ってなるんでしょうか…?
    しょうへいさんに届け、とばかりに今週のQ&Aは「若い人も痔になるの」というテーマで書きました。肛門周りの血行を悪くしない(同じ姿勢とかとりすぎない)、便秘にならない、でも下痢をしない、の三つが肝要です。かのナポレオンも痔だったのですが、現代にはヤクルトという万能薬があります。ヤクルトを飲んで、ぜひすばらしい20代を。

  9. ttttmmmmさん、
    コメントありがとうございます。
    > 僕も5%に入る者です。いや、初診ですべてを持っていると診断されましたので5%x45%x50%=1.125%に入ります。
    すごいですね。三つの痔レパートリーを制されているとは。走攻守そろった、最盛期の野村謙二郎のようですね。たぶん、全人口の30%のなかの、5%/45%/50%の三つを制しているので、実はもっと珍しい確率だと思います。
    でも、完治されているのか、心配です。
    ちなみに、洗いすぎると肛門周囲の皮膚のかぶれになると聞き、携帯ウォシュレットにまだ踏み込んでおりません。肛門ドライヤー付の携帯ウォシュレットがでたら、即買いですよね

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