痔闘病記 神戸・大阪編

1-8 誇り高き決断

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◉前回まであらすじ
研修医に囲まれ、看護婦の人気者になりつつ乗り越えた痔の切除治療。ほっとした俺の鼓膜に届いたのは、先生の「手術しないと、あな痔は治らない」という言葉だった。
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「あの、先生、もう一回言っていただいていいでしょうか?」

30分を超える、羞恥の医療体験を乗り越えた俺には、到底うけいれられない言葉だった。血走った目で詰め寄る俺を横目に見ながら、先生は繰り返す。
「いま行ったのは、あな痔の応急処置です。肛門周囲膿瘍を切除したのですが、あな痔は完治させるには、根本的な手術をしないといけないんです。」

「あぁ!?コウモンシュウイノウヨー!?なんだそりゃ。てか、そもそも『当院は切らない病院です』って言ってたじゃないか!(1-5いざ肛門科へ、を参照) なのに、分娩台に乗らされて、肛門切除されて、更に手術って、俺はがまんできねぇ!俺を誰だと思ってる!俺の叔父は、福岡は中州でキャバクラ経営してんだぞ!ゴルァ」

という罵詈雑言が胸を蠢く。しかし、ここは名医 黒川診療所。手術をしないといけない、というのは先生の真摯な眼差しからしても本当だろう。俺は誇り高きマーケターだ。動揺を見せてはいけない。俺は、極めて紳士的に切り返した。

「なるほど。手術なんですね。ちなみにおいくらくらいなのですか?」
外資仕込みの、見事なオープンクエスチョンだ。

先生「まぁ、50万円くらいですかね。」

・・・・・・

この世の中は、俺が知らないことが多すぎる。

俺は手術をするかどうかの明確な答えをせずに帰路についた。

憂鬱な土曜日の午後だった。ほんの一週間前まで、俺はうまいものを自由に食い、海外旅行は行きたいところに行き、お見合いパーティーにネットで申し込んでは参戦する、今っぽく言えばリア充な生活を送っていたのに、散々なことになってしまった。

俺はベッドの上に座り込んで考え込んだ。
「手術をするべきか、だましだまし生活するべきか」 精神を研ぎ澄ましすべてのシミュレーションをおこなう。
手術代があまりに高い。
だが、また再発して肛門にマスカット大の腫瘍がめりこみ、トイレに行くたびに悶絶する人間に尊厳はあるのか。

この10日間の苦闘が走馬灯のように頭をよぎる。
マスカット、分娩台、プリントゴッコ。
鮮烈なイメージが瞼の裏に映し出される。

ゆっくりと目を開けた俺は、手術をするという結論にたどり着いていた。様々な雑念が頭から追い払われ、俺はすがすがしすら感じていた。
戦前、柔道天覧試合を圧倒的な強さで制した木村政彦(鬼の木村)は、試合前日に額に「勝」の光が浮かび上がるまで座禅を組んでいたという。彼もこのような心境だったに違いない。俺にはその気持ちが今ならわかる。

以前にも言ったが、我が家の家訓は「善は急げ」だ。
携帯電話をとり、04からはじまる、千葉県柏の実家に電話を繋いだ。
数回のコールの後、久しく聞いてなかった母の声が、受話器を通じて聞こえてくる。
俺はすかさず本題に切り込んだ。

「お母さん、痔になっちゃった お願いだから、お金貸してください。」

俺にとって、プライドなどちっぽけなものだ。
いつの世も、頼りになるのは、母の愛情だ。
俺の三井住友銀行には、翌週、しっかりと依頼した金額が振り込まれていた。

金の工面が成功したら、次にやることは会社への報告。
月曜、朝一番に、クールビューティーとして名高かった上司、ブランドマネージャー富田さん(仮名)のデスクへと向かったのである。
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先週末、会社の知り合いの方のtweetから端を発し、一日で2万を越えるアクセスをいただきました。ありがとうございます。皆さん、ぜひ、どんどん拡散して、月曜朝に「お父さん、今日もちゃんとブログ見た?」「おう、見たに決まってるだろ。分娩台は恐ろしいな」的な父娘トークが普通に行われる世の中になるといいな、と思っています。

お父さん的に気になることの一つとして、お金があると思います。痔ナレッジで保険について、私が理解したことを追記しましたのでご覧ください。

4 Comments

  1. 痔を抱えながらも冷静と情熱を持ったあなた様に敬意を表します。
    専門が肛門ではありませんが一般に保険医療行為は点数で決まっているため全国共通のお値段です。
    さらに、保険が適用する方法と、医療機関側が独自で金額を設定してもよい保険が利かない方法(自費)があります。
    詳細は不明ですがあなた様の場合、めずらしいあな痔であったことや、安全で最先端の手術を提供したいとの思いで、健康保険が適用とされる手術方法では無理だと医師がご判断されたのでしょう。
    お尻に関わらず今後、何かで医療行為をお受けになる際は保険の範囲内でやりたいのか、自費(保険適用外)になってもいいのかをご自身で明示し、その場のメリットデメリットを理解する必要があります。
    (保険点数は2年に一度改訂されるため受けた時期によってお値段は変わります)
    金額の悩みで大事な健康を失う必要はありません、国民健康保険で保険外でも、国の高額医療費給付金制度や、民間の医療保険から助成が下りることもありますのでお調べになって備えておくことも必要かもしれませんね。
    国の制度で国に支払う場合は督促状がしっかり届きますが、支払ってもらう場合は申請が必要で、だまっていたらチャンスを見逃してしまいます、この病気になったら何の公的サービスが受けられるのかを予め知識として入れておくひつようもありますね。
    次回楽しみにしております!

  2. 円座クッション必須だネ♪
    飛行機でも職場でも活躍できるはず!
    すっごい大変なお話だと思うんだけどめっちゃ笑ったわw
    がんばれ!ってもうほとんど終わったお話なのかしらね~

  3. ミユさん、
    メッセージありがとうございます。コメント欄を管理しておらず、お返事おくれました。
    辻仁成のようなお褒めの言葉、恐縮です。とにかく、笑わせることからスタートしておりますので。
    保険に関して、コメント欄ありがとうございます。
    ◉私は、痔瘻で、肛門括約筋を切除するか、シートン法での処置が選択肢で、いずれにせよ初めの医院では保険外でした。ブログに書きましたが、次の病院で総合病院で国民保険が適用されています。
    ◉高額治療のサポートなどは知りませんでした。勉強になります。
    ◉国民保険のサポートなどを理解するのは自らを救いますね。ただ、私はやはり肛門科が点数が低いことなどの理由が理解できませんでした。国民の医療負担を減らすことは結局普段の予防的な処置(極論ではマッサージなども)にも点数を与えるべきなのでは、など入院後と考えておりました。
    また、私がしらないことなどご存知だと思うのでご教授お願いします。
    そして、毎週月曜、発行ですので楽しみにおまちください!
    > 痔を抱えながらも冷静と情熱を持ったあなた様に敬意を表します。

  4. はるけんさん
    お久しぶりです。実は円座クッションは賛否両論、数週間後に触れますのでお楽しみに!
    そして、私、90%の確率で、現在再発しています。タイミングがあえば、ライブブログになりますね。まさにソーシャルは強みを活かし、臨場感満載でお届けすることが夢です。はい。
    > 円座クッション必須だネ♪
    > 飛行機でも職場でも活躍できるはず!
    > すっごい大変なお話だと思うんだけどめっちゃ笑ったわw
    > がんばれ!ってもうほとんど終わったお話なのかしらね~

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