痔の治療に梅田の名医の誉れ高き、黒川診療所を訪れた俺。
連日、痔の診察にむけて、シミュレーションを積んできた俺は、「診療所にきているほとんどが女子」という状況はジャブ程度にかわしたが、「じゃ、そこの分娩台(みたいなもの)に乗って」という言葉は、さすがに読め切れなかった。
しかし、こんな不意打ちにひるむマーケターじゃない。
外資系の弱肉強食の世界で揉まれて4年、メンタルタフネスだけは誰にも負けない。
気を取り直した俺は、悠々と分娩台へと歩を進める。
先ほどのタツノオトシゴポーズをとるのを助けてくれた看護婦のおばさんが、俺にさっとタオルを渡す。絶妙なタイミングだ。さながら、俺は、分娩台という冷たいリングに向かう、チャンピオンのようだったという。
しかし、分娩台を目の前にするとさすがにひるむ。
分娩台なんて、テレビの赤ちゃんの感動誕生ドキュメンタリーと、俺のお母さんの出産のときの思い出話と、小室友里のビデオでしか出てきたことがない。こんなに近くで、そして生で分娩台を見る機会が俺の人生に訪れることがあるとは。。。
「えぇい、ままよ!」
意を決した俺は、ズボンとパンツを無造作に脱ぎすて、隣のプラスチックのかごに投げ入れる。
「タオルは腰にかけたままでいいですよ」
看護婦さん、ナイスアドバイスだ。俺はタオルを腰にあてがい、分娩台に颯爽とまたがった。(ちなみに腹が上を向く状態だ)
俺の眼下から先生が迫ってくる。
先生「さぁ、見てみましょうかね」再度、先生の指が俺の体内に入り込んでくる。
「一瞬で終わる。一瞬で終わる。一瞬で終わる。」
羞恥に耐えるためのマントラを、心の中で一心不乱に唱える俺。
しかし、その時、先生は無情にも第2ラウンドへのゴングをならしたんだ。
先生「じゃぁ、倒してみましょうね」
え、え、えぇ? どういう意味?分娩台を倒すの?
混乱する俺を尻目に、後方に傾斜していく分娩台。
頭部に向かって集まっていく血液の感触。
俺の腰をすべり落ちていくタオル。
10秒後には、タオルは臍上あたりに移動し、俺の下半身は完全に露出した。
お母さんにも見せたことがないであろう俺の秘孔が、病院の蛍光灯を向いている。
俺は心の中で、吐き捨てるように言ってやった。
「おなかのタオル、意味ねぇ。」
自尊心という名前の堤防は、決壊寸前だった。
ぐっと視界がよくなった先生は、なんだかひんやりする機械と指を駆使して、俺の秘孔を調べつくす。
土曜日の朝から、分娩台に乗って、下半身を天に突き出し、肛門に指を入れられる27歳の俺。
唇を噛みながら、恥ずかしさに耐えていた俺に向かって、先生がついに口を開いた。
「うぅむ。これは、典型的なアナジだな。」
診断が出たらしい。アナジ? アナジって、ジってつくからには、痔の一種!?
まぁ、そんなことはどうでもいい。痔ってわかったんだから、あとは処置して帰らせてくれ。
帰宅へと意識をすでに向かわせていた俺は、「典型的なアナジだな」という一言が、第3ラウンドへのゴングだったことにまだ気づいていなかったのだ。
ええい! 最高だよ
> ええい! 最高だよ
ありがとうございます。押し込みすぎにご注意くださいませ。