◎前回までのあらすじ
中国人医者の巧みなコミュニケーション能力によって、処置室のベッドへ足をかけることになった俺。 シンガポールの痔の外科処置は待ったなしだ。
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断るタイミングを逸した俺は、靴を脱ぐとベッドの上に体を預ける。
この時すでに先生と俺は、言語を介した会話は形骸化し、レベルの高いボディーランゲージが繰り広げられていた。
先生: 胸の前で腕を交差し、膝を屈伸させる。
俺 「あぁ、タツノオトシゴポーズのことね」 俺はすかさず、体をくの字にして、横向きになる。
先生: 腰のあたりで、手を上下させている。
俺 「はいはい、ズボンとパンツを下すのね」 ズボンとパンツを膝まで下す。 初心者はお尻だけだせばいいと思いがちだが、この時は潔く膝まで下すのが肛門科のマナーだ。
先生: ビニール手袋を手に装着し、ニヤリと笑う。
俺 「ばっちこい!」 いよいよ指が入る。
俺の臀部が押し広げられる。
ゴム手袋で覆われた先生の指が、ゆっくりと、しかし力強く、肛門を浸食してくる。
その時、先生の指と俺のアナルの距離、0.002mm。
「てか、痛いって!!」
つい日本語で抗議する俺の言葉は、透明な存在となって先生の耳を通り抜けていく。
全く気にすることなく肛門を検査し続ける先生。
そして、数分後指を抜くと、部屋の奥からおもむろに模型を持ってきた。
俺はベッドを降り、先生が持ってきたものに視線を送った。
その人体模型は、肛門をあらわしていて、「内痔核」「外痔核」「痔瘻」というステッカーとともに、症状が再現されていた。
微笑を浮かべながら、さっきまで俺の肛門を弄んでいた指を移動させる。
その先には、「痔瘻」のステッカーがあった。
俺 「やはり、痔瘻だったか。。。」
前回とは場所が違ったので、別の葉状線から進行したと思われる。
仕事、プライベートへの影響などをホリスティックに考え始めた俺。
2009年のシートンな日々に思いを馳せ、あの闘病に苦しんた日々を考えると、また同じことをしていかないといけないと思うと気が重くなるし、仕事もまたシンガポールでまた新しい担当になっ、、、
「Come on !!!」
突然、俺の思考をさえぎる声。
視線をあげると、先生はベッドを叩きながら、再度ベッドに上がるように促していた。
俺 「Well, before doing something, may I ask you to take me through what happened, and what treatment would be the best for my case?」
先生 「Come on!!!」
中国語、勉強しておけばよかった。。。
<数分後>
ベッドの上で、再度タツノオトシゴのポーズをとり、壁側を向く俺。
背後では、先生が手術の準備をせわしなく始める。 ピンセット、メス、ガーゼなどが銀色のプレートの上に並んでいくのがわかる。
いつからか、先生の奥さんだと思われるおばあさんが、助手のように参加し、様々な言葉が飛び交い始める。
先生 「イーヒンシャー、ホーフーシャンミー」 (見事な中国語)
俺 「ちょっと待てよ! 切るの? いきなり切るの?」 (見事にキムタク風)
おばあさん 「Take it easy. No worry」(彼女は、英語が少しだけできるらしい)
先生 「ハフリャンシー、スースコンスィー」
俺 「いや、だから、ちょっと答えてよ。俺、痔瘻だったんだよね?」
おばあさん 「OK OK. Hold this」 (なぜか、フェイスタオルみたいのを握らされる)
言語のボーダーなんてない世界になったらいいのにね。
言葉はわからなくても、緊迫感はわかるものだ。
いよいよ何かが始まる!
「いたーーーーーーーーい」
まずは麻酔の注射のようだ。
背後から来るからタイミングもわかりづらい。激痛が走る。
息を整えていると、何か話しかけてくる。
俺は知っている、この後は、肛門周囲膿瘍を切除することを。
予想通りメスが当てられる。
「イダ、イダダダダダダ!!!」
悲鳴をあげる俺。
今までの経験でもあったが、肛門周囲膿瘍は膿がたまっている場所なので、麻酔が効かないようだ。
「イダダダダダ!!! もっと優しく切れよ、オラエー!」
常夏のシンガポールに、ミスター痔1ばりの怒号が響いた。。。
<数分後>
永遠に思われる時間が過ぎ、切開後の処置が続く。
処置が終わり先生とその奥さんは上機嫌になり、俺は切開完了という予想していなかった処置のスピードでぐったりしていた。
俺が握りしめていたNokiaのスマートフォンを目にすると、先生はカメラモードにするように要求。
俺と記念撮影かと思ったら、俺の肛門を何度も接写していた。
もはや振り返る力もなくなすがままだった。
痛む肛門を我慢しながら、料金を払いに向かう。
中国語だけで書かれた領収書の下方に書いてある数字に目を落として俺は驚愕した。
1200シンガポールドル。
1シンガポールドルが65円とすると、日本円で80000円弱だ。
「高い!高すぎる! 切除しただけじゃないか。なんでこんなにするんですか?」説明を求める俺。
しかしおじいさん先生も、その奥さんも、ほとんど英語が通じない。
しばらく押し問答をすると、奥さんが、「Daughter, New York, Working」と言い始めた。
どうやら、NYで娘が働いていて、彼女なら英語が少しできるらしい。
奥さんがNYに電話をする。何か必死に伝えているようだ。
数分たち、俺に代わるように催促し、俺はやっと娘と話した。
娘「1200 Singapore Dollars. 1200 Singapore Dollars.」
いや、だから、それは知ってるんだけど、、、
俺は壊れたラジオのような娘との会話を終わらせると、敗北感に打ちひしがれながら1200ドルを置いて帰った。
(来週に続く)
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今週もアクセスありがとうございます。
私はパリ痔ェンヌが集まるフランスへの旅路の途中です。ヨーロッパはEURO2012で盛り上がっており、昨日もスペインVSフランスで多くのスペイン人が喜びを爆発させていました。
そんなサッカー選手のようなスポーツ選手ではあまり痔の人がいない印象がありますが、実際にそれほど痔の人はいないようです。
以前も書いたように、肛門まわりの血行(特に静脈)が痔にはキーとなるのですが、アスリートの人たちは多くのトレーニング、そして適切な栄養補給が保たれているらしいです。私も痔で休んだというスポーツ選手はあまり聞いたことがありません。
ただ、痔になって、塗り薬を自分で塗って出場停止になった選手もいるようです。(ステロイド剤) 大変ですね、アスリート。
一般人にとって、一番危険なスポーツはゴルフ。
普段デスクワークでほとんど歩かない人が、週末突然運動するだけでもリスクは高まるのですが、ゴルフはその中でもインパクトの瞬間の肛門への圧はかなり高いらしく、その瞬間に静脈にダメージを与えることが多いらしいです。
私は、普段はゴルフは一切やらなく、理由は「もっと走ったり、泳いだりしているほうがスポーツっぽいから」と言っていますが、本当の理由、皆さんわかりましたね。これからも言い訳しますので、よろしくお願いします。
シンガポール編、来週で完結予定です。
では、今週もいい一週間を。
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